new makez-inu’s blog

長野県界隈で芝居やら弾き語りやら便利屋やらやってる「まけずいぬ」「池田シン」のブログです。

スイカとビールと逃亡の記憶、3.野次馬

 初日の目的地は?州(スーゾウ)。上海から西へ百キロ程の街だ。道はしっかりと鋪装された平坦な道路だが、実をいえばぼくは今までサイクリングというものをやったことがない。こんなにしんどいものだとは思ってもみなかった。七月の太陽はジリジリとぼくを責め立てるし、焼けたコンクリート道路からは熱気がもうもうと湧き上がる。息は切れるし喉は乾くし、太腿は早くも引きつり始めた。ぼくは何も考えること無くただただこぎ続ける。脳みそが湯豆腐のように煮え立ってしまい、何も考えることができない。道路っ端では切身にしたすいかを盆に並べて売っている。ぼくは自転車を放り出し、その場にへたり込んですいかにかぶりつく。我を忘れてすいかに顔をうずめていると、いつの間にやらぼくの周りには黒山の人だかりができている。ぼくの自転車が珍しいのだ。彼らにとって自転車は身近な乗り物だが、それはあくまであのごついそばやの出前持ち自転車に限られる。ドロップハンドルに十五段変速付きのぼくの自転車は、彼らの目にはまるで、ランボルギー二・カウンタックとかそういうような見たこともないスーパーカーに映るのだろう。わいわいと何やら大声で騒ぎ立てながら、ぼくの自転車を指差したり触ったりしている。それは別にかまわないのだが、ただ、彼らの態度にぼくは、異邦人に対する好意を全く感じることができなかった。それはぼくが、いくら旅行者とはいえスーパーカーに乗って旅している奴に好意を感じることができない、ということと一緒なのだろうか?それとも彼らは日本人であるぼくに、過去の日帝支配に対する憎悪を掻き立てられているのか?あるいはそんな風に考えること自体、全くぼくの思い過ごしにしか過ぎないのか?試しにぼくは、野次馬の中の一人、煙を吐いている男に、「煙草を一本くれないか?」と身振りで示してみた。すると彼は、露骨に嫌な顔をして、ぼくから後ずさった。ぼくが今まで旅してきた国々で、かつてこんな事は一度だって無かった。東南アジアの国々なら、みんな喜んで煙草をくれたし、ヨーロッパだって持っていれば躊躇なくくれた。逆にせびられる事も多かったが。インドもまた然りだ。中国だって煙草はどこにでも売られているし、他の物と比べて特に高級品というわけでも無い・・・だけど例えばスーパーカーに乗って旅してる外国人が、ぼくに煙草をせびったとしたら・・・・・いや、そんな事はもうどうだって良い。重要なのはこの野次馬どもが、ぼくに一片の好意さえも持っていないという事。そして、そんな連中にぐるりと周りを取り囲まれている、という現在の状況なのだ。

ぼくは早々に立ち上がると、自転車を起こした。そして野次馬どもをかき分け、情け容赦の無い熱暑にぜいぜい喘ぎながら、再びペダルをこぎ出すのだ。